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モンマルトルの丘-3 [モンマルトルの丘]

 玲志の目の前に、パリの街が広がる。
周りに建ち並ぶ家々に遮られはするけれど、自分が登ってきた階段の先に見えるのがなんとも嬉しい。
 額にジンワリと汗をかいているのを思わず手の甲で拭う。
汗に濡れた手の甲はキラキラと光を反射した。
その手の甲をジーパンに擦ろうと思って、腿の横に手を持って行ったが、思い止まった。
ふいに、批難をたっぷりこめて自分の名前を呼ばれたような気がした。
 もちろん、いまこの場には自分一人だけなのだから、そんな気がしただけだった。
 歩いている間は、何も考えないで居られた気がするのに。玲志の心の中は今いろいろな事が渦巻いていた。
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station-12 [station(短編)]

はじめから読む

「えーなになに?確かに、何も聞いてない。」
賢二は、気持ちよくきっぱりと言う。
「やっぱりな。賢二は、プリンに夢中だったもんな。」
そして、さっきまで話題の外にいたはずなのに、スッと話題の中心に自分を持っていく。
「そうそう。食後のプリンはサイコーなのよ。」
 自分のじゃないくせに、よく言うわ。そう半ばあきれながら志保は会話に耳を傾ける。
「って、もう。プリンはどうでもいいから。俺でもモテそうな仕事って何だと思う?」
敦司が真剣な顔で、賢二に聞く。
周りは、笑いを漏らす。あまりの真剣さにみんなして大笑いしたいのをこらえてるという感じ。
 さっきから、ずっとこの話題なんだと、彩が志保に耳打ちする。
「くくっ・・・。あっちゃん。そんなこと真剣にきかんでも。」
賢二も笑いながら返す。
「なんだよ。賢二も笑うんかよ。俺は真面目に聞いてるんですけどっ。」
「って、真面目に聞くことか?小学生みたいだぞ。」
「それでもいい。賢二。俺になんかアドバイスくれっ。」
そういって敦司は、身を乗り出す。
 賢二は敦司に圧倒されて、体をイスにぐっと預ける。
そして、腕を組むと天井を見上げた。
志保も、みんなもそれまでは敦司がおかしくてたまらなかったけど、賢二と同じで圧倒された感じで、誰も笑いを漏らさなかった。
 もてる仕事って何?志保も頭の中でなんとなく考えながら、賢二の方をチラリと見た。
 志保の視線に気がついたのか、賢二は、志保にいつにない、困った表情を見せた。
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station-11 [station(短編)]

はじめから読む

 見慣れてる光景。
ホントは、新鮮さなんて微塵もなくて。だけど何の疑問もなく、みんなで笑いあう。
何で笑ってたんだろう。
あの時は、思いもしなかった。
考えもしなかった。
だからといって、あのときの気持ちなんて覚えていない。
でも、一つ。確かなこと。みんなと一緒にいられることが楽しかった。
賢二と二人もいいけど。みんなと一緒にいられることが。

「なー。賢二。そんな可哀想な俺でも、モテる仕事ってあると思う?」
「くっ。アッちゃんまだそんなこと言ってんの?さっきもあれだけみんなで言ってあげたじゃない。」
裕美が笑い飛ばす。
「えー。だって。賢二は絶対、聞いてなかったし。」

 賢二と志保がプリンをめぐって戯れてる間。他のみんなは、ちゃんとかどうかは怪しいけれど、就職活動の話をしていたらしい。

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easy? [renzi-恋詩]

空を見たければ
上を見ればいい

晴れた日に 外に出て 思いっきり

それは簡単なこと


君に会いたければ
君の声が聞きたければ

電話すればいい

頭ではわかってる
簡単なこと

だけど簡単じゃない
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モンマルトルの丘-2 [モンマルトルの丘]

はじめから読む>

 たぶん他にも、いっぱいある。
今現在の自分の状態とか以外にも、もっと大きく自分を取り囲んでいることとか。
心の奥底にある、よくわからない気持ちとか。その気持ちに向き合おうとしない自分とか。
とにかく、彼には「くっそ。」と吐きたいことは、いくらでもあった。

 階段の連続に疲れてきて、ついつい前かがみになる。
一段一段、しっかり見つめて、脚を前に出す。
 すぅっと、こめかみの横から汗が流れて、瞬きによって地面に落ちると。コンクリートに、黒いしみを作った。
彼は、自分が滴り落ちるほど汗をかいていたのに驚いて、歩みを止めた。
そして、腕時計を見た。
時間は、九時半をちょっと過ぎたくらい。まだ時間があることを確認すると、今まで向かっていた方に背を向けて、階段に腰を下ろした。
 
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station-10 [station(短編)]

はじめから読む

「ああ。もうしょうがないなぁ。」
志保は、自分の熱を振り払うように言い放った。
「そうこなくっちゃ。」
賢二は、ニヤリと笑う。

 その、ニヤリと笑う顔が、少年ぽくって普段の賢二には無い雰囲気で志保は好きだった。
志保と、賢二の親友増井に対してしか見せない顔。
知り合ったときから、ちらっと横から見ていて、いつか自分にもそうやって笑って欲しいと思ってきた笑顔。
 私は、この笑顔が見たいんだ。
 確かに、ずっと賢二と一緒にいれたらいいって思うけど。今は、笑顔が見たい。
 志保の心にさっきまであった曇りが消えた。

「はい。あーん。」
そういって志保は、スプーンを賢二の口にいれた。
 また、顔が熱くなるのを感じた。
それもそのはずで、志保がさっき言い放った言葉が強くて、会話をとめて仲間達が志保と賢二を見ていた。
「よくできました。」
 賢二は、一口のプリンを味わうと、志保の頭をわしわしと、撫でた。撫でるというより掴んで揺らすって感じだったけど。
しばらく、志保は賢二に揺らされていようと思った。
賢二の腕の影に隠れて、自分のきっと赤くなってるだろう顔がみんなに見えないと思ったから。

「はぁ。ほんっとに、二人仲いいよね。それにしても、やっぱ志保はツンデレだよね。」
裕美が言った。
その裕美の言葉に答えるために、賢二は手を止めた。
「だろ?だから、俺もみんなの前だと、志保楽しいからさぁ。」
賢二が、本当に楽しそうに返すのを聞いて、志保は、イラッとした。こっちは、本当に照れてるのに、気づいていたけど、やっぱりわざと楽しんでいたのかと。

「でもさぁ。彼女いない俺の前では、悲しくなるからやめて。」
「あ。わりぃ。アッちゃん。でも、それも計算済み。」
「うわっ。賢二のオニっ。」
『あはは・・・。』
みんなが笑う。



station-9 [station(短編)]

はじめから読む

 そうやって、心のほんの片隅。ずっとずっと奥のほうで、賢二の将来に、志保自身も含めて期待をしている自分がいて。それに向けて、少しでも自分が近づけるように今の賢二の期待に添おうとする自分が浅ましくて嫌だった。
もちろん、今賢二がそうして欲しいと思っていて、喜ぶから志保は賢二の期待にこたえるのだけど。心の奥で、少しでもそう思っているのが、志保自身嫌で、だからいつもよけに、敗北感を感じていたのかもしれない。
 就職活動の開始を間近に控えた志保にとっては、そんな賢二への期待は、邪魔で仕方がなかった。
だけど、賢二と一緒にいて、大事にされるほど賢二との将来に期待をしてしまう。

 私は、仕事に対して自分の夢を理想を追いかけていいのだろうか。
それとも、彼と一緒に生きていくために、何かを削った方がいいんだろうか。

「志保。あーんして。とか言ってくれないの?」
賢二が、志保をからかう。
「え。何でよ。」
「何でって、普通言ってくれるでしょ。」
「普通って。こんな場所でやれっていうのが、普通じゃないし。」
そういうと、志保は改めて自分達のことがなんだか、恥ずかしくなってきて、顔が熱くなるのを感じた。

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station-8 [station(短編)]

はじめから読む

 志保は、スプーンを握るてに力を込めていた。
どっちに転んでも、賢二はおいしい思いをする。
志保は、敗北感を感じていた。自分はおもちゃにされていると。
「っああ、もう。しょうがないなぁ。一口だけだよっ。」
 志保は、賢二が一番のぞむ方を受け入れた。
プリンを一さじ、賢二の口に運ぶ。
 賢二の物事を自分の得する方向に持っていく技を見せられると、志保はいつも負けたと思いながら、感心する。
そして、できる限り賢二の望む方に従う。
だって、賢二を逃したくないから。そう思ってしまっている自分自身に情けなさを感じて、負けたと余計に思ってしまう。
 賢二は、志保に対してだけではなくて、他の仲間に対しても、ゼミの先輩でも後輩でも、買い物に行っても。
志保の見ている範囲ではいつも、何かあると自分が得する方に物事を運ばせる。
 要領がいいのか、交渉がうまいのか。
見ていて、たまにそれはどうかと思うときはあるけれど、大体他の人のときは相手も何かしら得をする。
それは、ある種の才能で。賢二はそれに気づいているのかどうかわからないけど。
志保は、とにかくすごいと、認めていた。そして、そんな賢二だからきっと将来は出世するはず。
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 [renzi-恋詩]

君が夢に出てきた
目覚めた瞬間うれしくて
君に触れた 温もりも感じるようで

目が冴えるほど
君に届かないのが悲しくて
夢のなかの温もりは
現実の冷たさに打ち消される

ただひとつ
いまでも君が夢に出てきてくれること
夢の中でも 君にあえて嬉しいと
思えることに
私は 胸を撫で下ろす

まだ今も 君を好きでいることに
自信をもって
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station-7 [station(短編)]

はじめから読む

「しほ。忘れてた。プリン俺にも頂戴」
賢二の笑みに、身構えた志保だったが、拍子抜けした。
「えー。なんで。」
 人がせっかく、幸せとかについていろいろ思いをめぐらせていたのに。もちろん、それはほんの一瞬の時間でしかないが。
何かちょっと、ムッとしたのを志保は隠せなかった。
「さっきから、いってんじゃん。あーん。」
賢二は、ただ話を元に戻しただけ。そういって、賢二は口入れてといわんばかりに、志保にアピールする。
「欲しいんだったら、自分で食べなさいよっ。」
そういって、志保は賢二の前に、スプーンをぐっと突き出した。また、自分が賢二のペースに巻き込まれて行くきがしてついつい、きつくなる。
 べつに、べたべたするのは嫌じゃないんだけど、ただなんとなくみんなといるときは、みんなといたい。
そう思ったのは、いつだったか、自分という人間が、賢二と対になって周りに認識されているのを知ったときからだった。
 もちろん、一緒にいる仲間は、入学してから、賢二と付き合う前からの友達だから。志保のことは志保として認識してくれている。
「いいの?だったら全部食べるよ。」
突き出した、スプーンに手を伸ばしながら、賢二はまたニヤリと笑う。いいことを思いつくと賢二は絶対ニヤリと笑う。
「うっ、それは。」
 志保は、はめられたと思った。たしかに、賢二なら、人の物取り上げて食べそう。というか、よく志保以外にもやってる。
 プリンを全部取られるか。それとも、スプーン一杯を人前で食べさせてあげるか。
志保は、自分がなんだかすごい本当はどうでもいい事で悩んでるのがむなしかった。
「俺は、どっちでもいいけどね。」
 そういって、言葉を詰まらせた志保の顔をニヤニヤしながら覗き込む。
 
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