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station-12 [station(短編)]

はじめから読む

「えーなになに?確かに、何も聞いてない。」
賢二は、気持ちよくきっぱりと言う。
「やっぱりな。賢二は、プリンに夢中だったもんな。」
そして、さっきまで話題の外にいたはずなのに、スッと話題の中心に自分を持っていく。
「そうそう。食後のプリンはサイコーなのよ。」
 自分のじゃないくせに、よく言うわ。そう半ばあきれながら志保は会話に耳を傾ける。
「って、もう。プリンはどうでもいいから。俺でもモテそうな仕事って何だと思う?」
敦司が真剣な顔で、賢二に聞く。
周りは、笑いを漏らす。あまりの真剣さにみんなして大笑いしたいのをこらえてるという感じ。
 さっきから、ずっとこの話題なんだと、彩が志保に耳打ちする。
「くくっ・・・。あっちゃん。そんなこと真剣にきかんでも。」
賢二も笑いながら返す。
「なんだよ。賢二も笑うんかよ。俺は真面目に聞いてるんですけどっ。」
「って、真面目に聞くことか?小学生みたいだぞ。」
「それでもいい。賢二。俺になんかアドバイスくれっ。」
そういって敦司は、身を乗り出す。
 賢二は敦司に圧倒されて、体をイスにぐっと預ける。
そして、腕を組むと天井を見上げた。
志保も、みんなもそれまでは敦司がおかしくてたまらなかったけど、賢二と同じで圧倒された感じで、誰も笑いを漏らさなかった。
 もてる仕事って何?志保も頭の中でなんとなく考えながら、賢二の方をチラリと見た。
 志保の視線に気がついたのか、賢二は、志保にいつにない、困った表情を見せた。
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station-11 [station(短編)]

はじめから読む

 見慣れてる光景。
ホントは、新鮮さなんて微塵もなくて。だけど何の疑問もなく、みんなで笑いあう。
何で笑ってたんだろう。
あの時は、思いもしなかった。
考えもしなかった。
だからといって、あのときの気持ちなんて覚えていない。
でも、一つ。確かなこと。みんなと一緒にいられることが楽しかった。
賢二と二人もいいけど。みんなと一緒にいられることが。

「なー。賢二。そんな可哀想な俺でも、モテる仕事ってあると思う?」
「くっ。アッちゃんまだそんなこと言ってんの?さっきもあれだけみんなで言ってあげたじゃない。」
裕美が笑い飛ばす。
「えー。だって。賢二は絶対、聞いてなかったし。」

 賢二と志保がプリンをめぐって戯れてる間。他のみんなは、ちゃんとかどうかは怪しいけれど、就職活動の話をしていたらしい。

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station-10 [station(短編)]

はじめから読む

「ああ。もうしょうがないなぁ。」
志保は、自分の熱を振り払うように言い放った。
「そうこなくっちゃ。」
賢二は、ニヤリと笑う。

 その、ニヤリと笑う顔が、少年ぽくって普段の賢二には無い雰囲気で志保は好きだった。
志保と、賢二の親友増井に対してしか見せない顔。
知り合ったときから、ちらっと横から見ていて、いつか自分にもそうやって笑って欲しいと思ってきた笑顔。
 私は、この笑顔が見たいんだ。
 確かに、ずっと賢二と一緒にいれたらいいって思うけど。今は、笑顔が見たい。
 志保の心にさっきまであった曇りが消えた。

「はい。あーん。」
そういって志保は、スプーンを賢二の口にいれた。
 また、顔が熱くなるのを感じた。
それもそのはずで、志保がさっき言い放った言葉が強くて、会話をとめて仲間達が志保と賢二を見ていた。
「よくできました。」
 賢二は、一口のプリンを味わうと、志保の頭をわしわしと、撫でた。撫でるというより掴んで揺らすって感じだったけど。
しばらく、志保は賢二に揺らされていようと思った。
賢二の腕の影に隠れて、自分のきっと赤くなってるだろう顔がみんなに見えないと思ったから。

「はぁ。ほんっとに、二人仲いいよね。それにしても、やっぱ志保はツンデレだよね。」
裕美が言った。
その裕美の言葉に答えるために、賢二は手を止めた。
「だろ?だから、俺もみんなの前だと、志保楽しいからさぁ。」
賢二が、本当に楽しそうに返すのを聞いて、志保は、イラッとした。こっちは、本当に照れてるのに、気づいていたけど、やっぱりわざと楽しんでいたのかと。

「でもさぁ。彼女いない俺の前では、悲しくなるからやめて。」
「あ。わりぃ。アッちゃん。でも、それも計算済み。」
「うわっ。賢二のオニっ。」
『あはは・・・。』
みんなが笑う。



station-9 [station(短編)]

はじめから読む

 そうやって、心のほんの片隅。ずっとずっと奥のほうで、賢二の将来に、志保自身も含めて期待をしている自分がいて。それに向けて、少しでも自分が近づけるように今の賢二の期待に添おうとする自分が浅ましくて嫌だった。
もちろん、今賢二がそうして欲しいと思っていて、喜ぶから志保は賢二の期待にこたえるのだけど。心の奥で、少しでもそう思っているのが、志保自身嫌で、だからいつもよけに、敗北感を感じていたのかもしれない。
 就職活動の開始を間近に控えた志保にとっては、そんな賢二への期待は、邪魔で仕方がなかった。
だけど、賢二と一緒にいて、大事にされるほど賢二との将来に期待をしてしまう。

 私は、仕事に対して自分の夢を理想を追いかけていいのだろうか。
それとも、彼と一緒に生きていくために、何かを削った方がいいんだろうか。

「志保。あーんして。とか言ってくれないの?」
賢二が、志保をからかう。
「え。何でよ。」
「何でって、普通言ってくれるでしょ。」
「普通って。こんな場所でやれっていうのが、普通じゃないし。」
そういうと、志保は改めて自分達のことがなんだか、恥ずかしくなってきて、顔が熱くなるのを感じた。

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station-8 [station(短編)]

はじめから読む

 志保は、スプーンを握るてに力を込めていた。
どっちに転んでも、賢二はおいしい思いをする。
志保は、敗北感を感じていた。自分はおもちゃにされていると。
「っああ、もう。しょうがないなぁ。一口だけだよっ。」
 志保は、賢二が一番のぞむ方を受け入れた。
プリンを一さじ、賢二の口に運ぶ。
 賢二の物事を自分の得する方向に持っていく技を見せられると、志保はいつも負けたと思いながら、感心する。
そして、できる限り賢二の望む方に従う。
だって、賢二を逃したくないから。そう思ってしまっている自分自身に情けなさを感じて、負けたと余計に思ってしまう。
 賢二は、志保に対してだけではなくて、他の仲間に対しても、ゼミの先輩でも後輩でも、買い物に行っても。
志保の見ている範囲ではいつも、何かあると自分が得する方に物事を運ばせる。
 要領がいいのか、交渉がうまいのか。
見ていて、たまにそれはどうかと思うときはあるけれど、大体他の人のときは相手も何かしら得をする。
それは、ある種の才能で。賢二はそれに気づいているのかどうかわからないけど。
志保は、とにかくすごいと、認めていた。そして、そんな賢二だからきっと将来は出世するはず。
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station-7 [station(短編)]

はじめから読む

「しほ。忘れてた。プリン俺にも頂戴」
賢二の笑みに、身構えた志保だったが、拍子抜けした。
「えー。なんで。」
 人がせっかく、幸せとかについていろいろ思いをめぐらせていたのに。もちろん、それはほんの一瞬の時間でしかないが。
何かちょっと、ムッとしたのを志保は隠せなかった。
「さっきから、いってんじゃん。あーん。」
賢二は、ただ話を元に戻しただけ。そういって、賢二は口入れてといわんばかりに、志保にアピールする。
「欲しいんだったら、自分で食べなさいよっ。」
そういって、志保は賢二の前に、スプーンをぐっと突き出した。また、自分が賢二のペースに巻き込まれて行くきがしてついつい、きつくなる。
 べつに、べたべたするのは嫌じゃないんだけど、ただなんとなくみんなといるときは、みんなといたい。
そう思ったのは、いつだったか、自分という人間が、賢二と対になって周りに認識されているのを知ったときからだった。
 もちろん、一緒にいる仲間は、入学してから、賢二と付き合う前からの友達だから。志保のことは志保として認識してくれている。
「いいの?だったら全部食べるよ。」
突き出した、スプーンに手を伸ばしながら、賢二はまたニヤリと笑う。いいことを思いつくと賢二は絶対ニヤリと笑う。
「うっ、それは。」
 志保は、はめられたと思った。たしかに、賢二なら、人の物取り上げて食べそう。というか、よく志保以外にもやってる。
 プリンを全部取られるか。それとも、スプーン一杯を人前で食べさせてあげるか。
志保は、自分がなんだかすごい本当はどうでもいい事で悩んでるのがむなしかった。
「俺は、どっちでもいいけどね。」
 そういって、言葉を詰まらせた志保の顔をニヤニヤしながら覗き込む。
 
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station-6 [station(短編)]

はじめから読む

 みんなと一緒でもいい。とにかく、賢二と同じ時間を共有する。
仲間達は、暗黙の了解でいつも集まってくる。そこの中に賢二も含まれていて、特に約束をしていなくても、賢二と会えた。
二人が約束をするのは、夏休みとか大学に来なくていい時くらいだった。
毎日、いつも賢二と一緒にいる志保に、ゼミの先輩やいつも集まる仲間達以外の友達はきまって、「束縛しすぎじゃない?」だとか「束縛されて嫌にならない?」と聞いてくるのだけど、志保は全くそうやって聞かれる意味がわからなかった。
 毎日一緒にいても、それは自然に遭遇することがほとんどで、約束でもなんでもない。友達通しいつの間にか習慣になっていることを授業に出るのと同じように繰り返していただけだったから。
 だけど、この前の夏休みはどこか違った。
長い休みはコレまでに、夏休み、冬休み、春休みそして、夏休みと四回経験してきたのだけど。賢二は今まで以上に「どこかへ行こう。」とか「明日会おう」とか誘ってくるのが多かった。
二人が付き合って、二回目夏休みだし。一回目は付き合い始めて間もなかったからということもあって。夏休みの間は、何も気にしたことがなかったけど。
 夏休みが終わって、普通の日々に戻ってみて。志保は、なんだか今さらだけどどこか何か引っかかるものを感じていた。

 賢二は、何か思いついたように、ニヤリと笑った。
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station-5 [station(短編)]

はじめから読む

 そう。いつものパターン。
周りのみんなもそう思っていて。誰も何も言わない。
「またやってるよ。あの二人は」きっとそれくらいしか思っていない。
はじめのうちは、志保の取る行動がみんなの目には意外で二人の成り行きを面白がって見ていたのだけど、最近は本当に、いつものことで、空気のようになっていた。
 志保は、心の奥底で、いつか賢二とのこんなじゃれあいもなくなってしまう日が来てしまうのではないかと、怯えていた。賢二が志保に対して態度をかえるのではなくて。
志保は、自分が賢二に冷たくしてしまうのではないかと、怖かった。

「で、そういう・・・は、ちゃんと考えたりしてるの?」
志保と、賢二が一騒動終えた間にも、仲間達の会話は進んでいた。
それを志保は、降参という言葉からは、無縁のような笑みを浮かべている賢二の顔を見ながら聞いていた。
 そんな賢二の顔を見つめながら、自然と自分の顔も笑顔になっていくのを感じていた。
 志保は、今の自分にとって何が一番幸せなのか、感じていた。間違いなく、賢二と一緒にいることが幸せだと確信していた。


タグ:自作小説

station-4 [station(短編)]

はじめから読む

「そーんな、驚くなって。」
志保の一声に、賢二はなだめるようにゆっくりと言葉を返した。
そして、覗き込むように、顔を志保の前に近づけた。
「驚くわっ。さっきまで普通の距離だったのに。ってもうっ。離れろ。」
そういって志保は、顔をぐっと賢二から背けた。
「なに。もういいじゃん。しーほ。こっち向いてよ。」
賢二は、そういって志保に絡みつく。周りに仲間達がいるのもお構いなしで。志保はそれを賢二の機嫌を損ねないギリギリのところで抵抗する。
 べつに、志保は、賢二が嫌なわけではない。志保と賢二は、付き合って一年になる。それを隠しているわけでもない。ここにいる仲間達は、もちろん二人の関係を知っている。というか、焚きつけた張本人たちだし。
志保と賢二が名前も顔も知らない人たちも、二人の事は知っているくらい仲が良いと評判のカップルだった。そしてその評判の通り二人は仲が良い。
 でも、志保は賢二のいちゃつきを抵抗する。時に力さえ使う。
 絡み付いた賢二は、イスの背に回していた手を志保へと回した。
「なーにしてるのかな。賢二君。」
すぐさま志保は、抵抗して握っていたスプーンの頭の部分を、賢二の手の甲にグリグリと押し付けた。
「いたたた。志保。それは勘弁。」
痛みに耐えられず、賢二はパッと志保に回していた手をひいて、降参という意味を込めて自分の顔の横に手の平をあげた。
 いつものパターンだ。



タグ:自作小説

station-3 [station(短編)]

はじめから読む

 嫌なこと、悪いことは、突然にやってくるから嫌なことなんだ。一年くらい前。志保はそう学んだ。まぁ。反対の良いこと、幸せなことも、嫌なこと、悪いことと同じように突然にやってくるのだけれども。
 だからといって、あの時、前からわかっていれば、少しは変わったんだろうか。何度も、振り返ってそう考えてみるけど、志保には何の慰めにもならなかった。ただ、自分を余計苦しめるだけだった。

「ああ。俺は、来年イギリス行くから。」
志保は、この言葉を忘れない。忘れることができない。
 でも、この言葉がどんな状況で言われて、そのとき自分がどうしたかは、あまり記憶に残っていなかった。覚えていないんじゃなくて、もしかしたら覚えていたくなくて、記憶から消したのかもしれない。

 一年ちょっと前のこと。
後期の授業が始まって、二週間くらいが過ぎていた。それぞれが、前期の失敗、反省を胸に張り切っていたのもつかの間。
すっかり楽することを覚えてしまった三年目には、張り切ることはつらく、いつもの仲間六人とそろって「次はサボろう」と決めてゆっくりお昼ごはんを食べて、さらに誰かがスナック菓子をテーブルに広げたときだった。
「そういえば、掲示板見た?」
面倒そうな口ぶりで、誰かが、誰にともなく聞いた。
「え?なんかあった?」
「就職ガイダンスの案内出てたでしょ。」
話題に食いついた返答に、すぐさま変わらず面倒な口調で応える。
「ああ。そういえば出てたね。掲示板だけじゃなくて、ご丁寧についたてまで出てた。」
今度は、また別の誰かが、会話に入っていく。
「なんかさ。俺らも、ついに将来とか考えなきゃいけないって思うと、つらいよね。」
 志保はそれをデザートのミルクプリンをつつきながら聞いていた。
近頃は、志保から会話を切り出すことは少なく、会話に入ることもなくて、聞き役に回ることが多かった。べつに、仲間達と合わないわけではない。
隣に賢二がいるときは、志保は彼の行動を制すために会話に夢中になるわけにはいかないのだ。
「しーほ。俺にもプリン分けて。」
志保は、賢二の声の近さにビクりとした。
円テーブルを囲んでいて、隣に座ってる賢二とは、結構距離が開いていたはずなのに、いつの間にかべったりな位置にいるらしい。志保は、賢二との距離を確認するために、賢二の方に首を向けた。
「ちかっ・・・」
賢二との距離を確認した志保は、思わずあまりの近さに声に出さずにはいられなかった。賢二の顔はすぐ横にあって、そうしている間にも、賢二の腕は志保の座っているイスの背もたれに回されていた。


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