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station-3 [station(短編)]

はじめから読む

 嫌なこと、悪いことは、突然にやってくるから嫌なことなんだ。一年くらい前。志保はそう学んだ。まぁ。反対の良いこと、幸せなことも、嫌なこと、悪いことと同じように突然にやってくるのだけれども。
 だからといって、あの時、前からわかっていれば、少しは変わったんだろうか。何度も、振り返ってそう考えてみるけど、志保には何の慰めにもならなかった。ただ、自分を余計苦しめるだけだった。

「ああ。俺は、来年イギリス行くから。」
志保は、この言葉を忘れない。忘れることができない。
 でも、この言葉がどんな状況で言われて、そのとき自分がどうしたかは、あまり記憶に残っていなかった。覚えていないんじゃなくて、もしかしたら覚えていたくなくて、記憶から消したのかもしれない。

 一年ちょっと前のこと。
後期の授業が始まって、二週間くらいが過ぎていた。それぞれが、前期の失敗、反省を胸に張り切っていたのもつかの間。
すっかり楽することを覚えてしまった三年目には、張り切ることはつらく、いつもの仲間六人とそろって「次はサボろう」と決めてゆっくりお昼ごはんを食べて、さらに誰かがスナック菓子をテーブルに広げたときだった。
「そういえば、掲示板見た?」
面倒そうな口ぶりで、誰かが、誰にともなく聞いた。
「え?なんかあった?」
「就職ガイダンスの案内出てたでしょ。」
話題に食いついた返答に、すぐさま変わらず面倒な口調で応える。
「ああ。そういえば出てたね。掲示板だけじゃなくて、ご丁寧についたてまで出てた。」
今度は、また別の誰かが、会話に入っていく。
「なんかさ。俺らも、ついに将来とか考えなきゃいけないって思うと、つらいよね。」
 志保はそれをデザートのミルクプリンをつつきながら聞いていた。
近頃は、志保から会話を切り出すことは少なく、会話に入ることもなくて、聞き役に回ることが多かった。べつに、仲間達と合わないわけではない。
隣に賢二がいるときは、志保は彼の行動を制すために会話に夢中になるわけにはいかないのだ。
「しーほ。俺にもプリン分けて。」
志保は、賢二の声の近さにビクりとした。
円テーブルを囲んでいて、隣に座ってる賢二とは、結構距離が開いていたはずなのに、いつの間にかべったりな位置にいるらしい。志保は、賢二との距離を確認するために、賢二の方に首を向けた。
「ちかっ・・・」
賢二との距離を確認した志保は、思わずあまりの近さに声に出さずにはいられなかった。賢二の顔はすぐ横にあって、そうしている間にも、賢二の腕は志保の座っているイスの背もたれに回されていた。


タグ:自作小説
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